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東京五輪スポンサー 「掟破り」の相乗り 東京2020これでいいのかvol.1

有名無実化した「1業種1社」の原則

 東京五輪のスポンサーシップは、これまでの五輪に見られないような形態を取っています。それは「1業種1社」の慣例を事実上撤廃し、同業の相乗りを認めている点にあります。このメリット、デメリットを考えてみます。

 

 国際オリンピック委員会IOC)が1業種1社の原則を打ち出したのは、1984年のロサンゼルス五輪からです。組織委委員長のピーター・ユベロス氏がスポンサー料金を上げるために導入したとされています。IOCは以後、五輪の商業化を推し進め、現在のような多額のスポンサー料金とテレビ放映権料に支えられた体制ができあがりました。1業種1社の慣例は、各国の国内オリンピック委員会NOC)にも適用されています。

 しかし、この慣例を近年はIOC自身が崩しつつあり、すでに有名無実化していると言ってもいい状況になっています。東京五輪はどんな企業がスポンサーになっているか、見てみましょう。

 

 東京五輪のスポンサーは、契約額が高い方から、IOCが直接契約する「ワールドワイドパートナー」、東京五輪組織委員会が契約する「ゴールドパートナー」「オフィシャルパートナー」「オフィシャルサポーター」の4階層に分かれており、それぞれ使える権利が異なります。オフィシャルサポーターを除く3階層は、既にスポンサー企業が発表されています。


 まずは、ワールドワイドパートナーから見てみましょう。赤字の企業は、事業が競合している社を示しています。また、「国」は本社があるところを指し、他国発祥の企業は日本法人がある場合でも大元の国を記載しています。

ワールドワイドオリンピックパートナー
企業 業種
Coca Cola アメリ 飲料
P&G アメリ 日用消費財
Visa アメリ 決済事業
GE アメリ 重工・軍需など
Dow Chemical アメリ 化学品
intel アメリ 半導体
Panasonic 日本 総合電機
トヨタ自動車 日本 自動車
ブリヂストン 日本 タイヤ
Omega スイス 時計
Atos フランス ITコンサルタント
Samsung 韓国 総合家電
Alibaba 中国 オンラインマーケット

 まず、インテルサムスンは、半導体事業で世界トップシェアを争う競合同士です。2017年4~6月の世界半導体市場で、サムスンが24年ぶりにインテルを首位の座から引きずり下ろしたというニュースは記憶に新しいところです。1業種1社の原則は守られていません。また、パナソニックはテレビ事業などでサムスンと競合しています。こちらも別業種として扱うことはできません。IOCは自らが立てた1業種1社の旗を事実上、下ろしていると言えます。

 

 そうしたIOCの姿勢に追従したのか、東京五輪組織委員会も1業種1社にこだわらずスポンサー集めに奔走し、同業が相乗りする形を整えました。

 以下、東京五輪組織委が契約したスポンサー企業の一覧です。

東京2020オリンピックゴールドパートナー
企業 業種
アサヒビール 日本 ビール
アシックス 日本 スポーツ用品
JXTGエネルギー 日本 石油製品
東京海上日動 日本 損害保険
日本生命 日本 生命保険
NTT 日本 通信
NEC 日本 電機
富士通 日本 電機
キヤノン 日本 映像機器
野村ホールディングス 日本 証券
みずほフィナンシャルグループ 日本 銀行
三井住友フィナンシャルグループ 日本 銀行
三井不動産 日本 不動産
明治 日本 乳製品・菓子
LIXIL 日本 住宅設備部材

 

東京2020オリンピックオフィシャルパートナー
企業 業種
JTB 日本 旅行
近畿日本ツーリスト 日本 旅行
東武トップツアーズ 日本 旅行
セコム 日本 警備サービス
綜合警備保障 日本 警備サービス
大日本印刷 日本 印刷
凸版印刷 日本 印刷
全日空 日本 航空
日本航空 日本 航空
日本郵政 日本 郵便・配送
ヤマト運輸 日本 宅配
JR東日本 日本 鉄道
東京メトロ 日本 鉄道
読売新聞社 日本 新聞
朝日新聞社 日本 新聞
毎日新聞社 日本 新聞
日本経済新聞社 日本 新聞
味の素 日本 食品
日清食品 日本 食品
キッコーマン 日本 醤油
大和ハウス工業 日本 住宅
TOTO 日本 衛生陶器
エアウィーヴ 日本 寝具
東京ガス 日本 ガス
リクルート 日本 人材派遣
三菱電機 日本 電機
シスコ アメリ ネットワーク機器
EF Education First スウェーデン 語学

 

 ゴールドパートナーの方から見ていきましょう。2015年から20年までの6年契約で、契約額は1社総額150億円前後と言われています。

 こちらで象徴的なのは、電電公社(現NTT)に通信機器を収めることで成長してきた「電電ファミリー」の一員であるNEC富士通の共存でしょう。事業で競合する部分が多く、厳密なルールにのっとれば、どちらか1社しか選ばれないはずです。

 その点について、組織委は以下のように考えているとのことです。

 組織委員会の担当者は、「ITといっても、すべて1社で行うことはできない。例えば、飲料でも炭酸飲料とビールは違う。今回は、契約カテゴリーが異なり、棲み分けはできており、2社との契約を決めた」と話す。(15年3月27日・産経新聞

  東京五輪を運営していく上で、両社は異なる部分を担うため、契約に問題は生じないという認識です。

 同様に、ゴールドパートナーでは銀行業界から、みずほフィナンシャルグループ三井住友フィナンシャルグループが名を連ねました。

 

 次にオフィシャルパートナーを見てみます。
 こちらも契約は2015年から20年までの6年間で、契約額は総額50~60億円と言われています。

 同業ないし事業が競合する会社は以下の通りです。
旅行業:  JTB近畿日本ツーリスト東武トップツアーズ
警備サービス:  セコム、綜合警備保障
印刷業:  大日本印刷凸版印刷
航空:  全日空日本航空
宅配・郵送:  日本郵便ヤマト運輸
鉄道:  JR東日本東京メトロ
新聞:  読売新聞、朝日新聞毎日新聞日本経済新聞
食品:  味の素、日清食品

 そのほか、オフィシャルパートナーになっているTOTOは、ゴールドパートナーのLIXILと、オフィシャルパートナーの三菱電機は、ゴールドパートナーのNEC富士通と、オフィシャルパートナーのシスコは、ゴールドパートナーのNTTと事業が重なる部分があり、スポンサーのカテゴリーをまたいだ競合関係も存在します。

 これほど同業企業が相乗りする五輪のスポンサーシップは異例であり、「1業種1社」の慣例は完全に無視されていると言えます。

 

 2012年のロンドン五輪のスポンサーと比べてみると、その特異性が分かると思います。では、そのスポンサーを見てみましょう。

ロンドン五輪のスポンサーシップ 見事な棲み分け 東京2020これでいいのかvol.2