カハラホテル 横浜に進出 成功できる?
期待と同時に違和感も
会員制ホテルなどを手掛けているリゾートトラストが、横浜みなとみらい地区にカハラホテルを建設すると発表しました。発表日は2017年10月16日。開業は2020年夏ごろの予定ということです。
このニュースにハワイが好きな方は驚かれたのではないでしょうか。カハラホテルの存在は知っていても、日本の会社が所有している事実は意外と知られていなかったかと思います。
リゾートトラストという会社名も、多くの人に浸透しているとは言えないでしょう。そんな会社がカハラを日本に持ってくるというのです。
このニュースを見た時、「あのカハラが横浜にできるのか」という素直な期待と同時に、何とも言えない違和感も覚えました。
なぜ違和感があるのでしょう。少し考えてみました。
その1:「カハラ」が地名だから
カハラホテルは、ワイキキから車で15分ほどの「カハラ」地区にあります。そのカハラにあるから、カハラホテルなのです。カハラを離れてカハラホテルなの? と真剣に考えてしまうと、「どこか変だな」と思ってしまうわけです。
ただ、地域の名前をブランドネームにしたホテルがないわけではありません。最も有名なのは、「東横イン」でしょう。東京・横浜で「東横」です。東京・蒲田に1号店を出したところからスタートして日本全国に展開し、現在はソウル、プノンペン、フランクフルトなど海外にも進出しています。
その2:リゾートホテルなのに横浜?
カハラホテルはカハラビーチに面して建つリゾートホテルです。対して、横浜は日本で指折りの大都市です。横浜に建つカハラは、当然ながらリゾートホテルではありません。形態が全く違う以上、違和感があっても致し方ないかもしれません。これが沖縄への進出であれば、腑に落ちたと思います。
その3:「カハラ」がグループ名ではないから
カハラホテルは、オアフ島のカハラ地区に1つあるだけです。そこにも違和感を覚える一因があるように思います
想像してみましょう。仮に日本の会社が、米マリオットインターナショナルを買収したとして、その会社が「マリオットホテルをお台場に2020年に開業します」と発表したとします。このニュースに首をかしげることはないでしょう。それは、世界中にマリオットグループのホテルが既に数多くある中で、新たにマリオットホテルが1つ増えるだけだからです。
今回のカハラホテルのケースは違います。カハラは単体のホテルです。「カハラグループ」ではありません。たとえるなら、日本屈指の高級旅館とされる俵屋旅館(京都)、あさば旅館(伊豆・修善寺)が中国企業に買収され、「俵屋旅館・北京」「あさば旅館・上海」のようなものができるイメージです。
そのようなことは現実的には起こり得ないでしょう。ただ、横浜にカハラホテルを持ってくるという発想は、そのような突飛さが潜んでいるように思うのです。
リゾートトラストとは
リゾートトラストはどんな会社なのでしょう。
本社は名古屋市です。会員制ホテルを主体事業とし、「エクシブ」や「トラスティ」といったブランド名で様々なホテルを展開しています。海外に所有しているホテルはカハラだけで、他はすべて国内です。
リゾートトラストが運営する会員制ホテルで、最も有名なのは東京ベイコート倶楽部ではないでしょうか。Π(パイ)の形をした特徴的なビルで、所在地は江東区有明です。公式HPによると、会員権は最も安いもので700万円超、高いものは4,400万円余りと、とても高額です。
猪瀬直樹氏が東京都知事選の選挙資金を巡る問題で追及されていたころ、東京ベイコート倶楽部の会員権を持っていたことから、金の出所をめぐって都議会から疑惑の目が向けられ、その名が広まりました。
(※ ベイコート倶楽部の会員権は猪瀬氏本人が買ったとされ、都知事辞任の理由と関係はありません)
リゾートトラストは2014年にカハラホテルを300億円余りで買収しています。カハラホテルの売上高に関して、はっきりとした情報がないため、300億円が高いか安いかは何とも言いようがありません。ただ、売上高が1,400億円余り(2017年3月期連結)のリゾートトラストにとって、300億円は決して小さな額ではなかったはずです。ハワイの不動産を日本企業が買い漁ったバブル期ならいざ知らず、今の時代にこれだけの資金を用意して打って出たからには、買収時からカハラブランドを使った世界進出を青写真として描いていたと考えるのが自然でしょう。
横浜で成功できるか?
リゾートトラストは横浜を皮切りに、バリやプーケットなどアジア太平洋エリアにカハラブランドで進出する構想を持っているといいます。では、カハラはハワイを離れて、成功を収められるでしょうか?
個人的には、横浜に関して言えば、うまくいくのではないかと考えます。
まず、オアフ島とカハラホテルに対する日本人の印象が抜群にいいという点が挙げられます。ハワイが好きな人なら、カハラ=由緒ある高級ホテル、というイメージを描くはずです。ブランドイメージというものは簡単に構築できるものではありません。それが最初からできあがっているのですから、これはとてもおおきな利点です。
また、みなとみらい地区という場所が、選び抜かれていると思います。リゾートホテルであるカハラが横浜にできる違和感があると最初に書きましたが、百歩譲って都市部に持ってくるとしたら、やはり海に近い場所がふさわしいと考えます。もし海を望めない内陸部につくってしまったら、もはやカハラの要素がどこにも見当たらないことになってしまいます。その意味で、首都圏でカハラを建てるには、お台場、みなとみらいのような場所しかなかったのではないでしょうか。
そして、あと1点。これが最も重要なポイントです。横浜は東京に比べて、高級ホテルが多くありません。
リゾートトラストはカハラホテル横浜の価格帯として、最も狭い部屋で10万円を予定しているといいます。横浜には現在、横浜ベイホテル東急、横浜ロイヤルパーク、ヨコハマグランドインターコンチネンタルといった高級ホテルがありますが、10万円を最低価格としているようなホテルはありません。カハラができると、横浜で最も高いホテルになると思われます。
対して、東京の高級ホテル間競争は、市場規模の違いを加味しても、横浜とは比べようがないほど激しいものがあります。国内勢を見てみると、帝国、ニューオータニ、2019年に改装を終えて再出発するオークラの御三家に加えて、ザ・プリンスギャラリー、パレス、椿山荘、キャピトル東急、星のやなど、とにかく充実のひと言。さらに、高級外資系ブランドとして、フォーシーズンズ、リッツ・カールトン、パークハイアット、グランドハイアット、アンダーズ、コンラッド、ヒルトン、マンダリンオリエンタル、シャングリ・ラ、ペニンシュラ、アマン、ウェスティンなどが進出しており、そのすさまじい競争は世界的に見ても指折りではないかと思います。
そう考えると、横浜はまだ平穏です。カハラブランドといえども、東京では埋もれてしまう危険性がありますが、横浜なら問題なく存在感を発揮できるでしょう。あとは、いかにそのブランド名に恥じない運営ができるか、にかかってくると思います。
リゾートトラストは2014年のカハラホテル買収時から、高級ホテルの運営ノウハウを蓄積してきたといいます。それを発揮するには、優秀なホテリエをいかに集めるかがカギになってくるでしょう。いかに部屋やロビーが豪華で美しくとも、それだけでは足りません。ホスピタリティにあふれるスタッフがいてこそ、高級ホテルは高級ホテルとして機能します。一人前のホテリエは一朝一夕には育ちません。人材不足が叫ばれる時代にあって、スタッフをどう集め、育てるかが成否を左右しそうです。
同じオアフ島のホテルであるハレクラニの沖縄進出に関する記事、ならびにオアフ島のカハラホテル、ハワイに関する過去記事は以下。