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Mr.Children ヒカリノアトリエで虹の絵を描く ドキュメンタリー作品になった理由は?

目立つ辛口評価

 
 Mr.ChildrenBlu-ray/DVDで「ヒカリノアトリエで虹の絵を描く」を2017年12月20日に発売しました。16~17年にかけて全国35都道府県を回ったホールツアーのリハーサル、ライブの舞台裏、そして実際のライブの様子などが収められています。ライブを全編通じてそのまま収録したものではなく、ドキュメンタリーとしての要素が強いので、ツアーで演奏された曲をフルで聴けるのは10曲ほどにとどまります。

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 その作品の評判が今ひとつ、よろしくありません。Amazonのレビューを見ると、2017年12月末現在、星5つが50%台の中盤にとどまっています。これはミスチルにとって異例のことで、過去のどの映像作品より低い評価です。

 

 たとえば、前作のStadium Tour 2015 未完は星5つが82%、その前のREFLECTION{ Live&Film}も82%です。近年の作品でさらに評価が高いものだと、STADIUM TOUR 2011 SENSE -in the field-は91%、TOUR POPSAURUS 2012は89%となっています。

 

 逆に星5つの割合が低いものは、TOUR 2011 "SENSE"で61%、Split The Differenceで62%といったところです。

 

 Amazonのレビューが作品の良し悪しを判断する指標として、何よりも適正だと考えてここに持ち出しているわけではありませんが、購入者の様々な感想が寄せられる場として、一つの目安、判断材料にはなると思います。ヒカリノアトリエで虹の絵を描くのレビューは、まだこれから増えるでしょうから、最終的にどの辺りに落ち着くか分かりません。ただ、現時点で、好評を得られていないのは確かです。

 

CDへの不満も多く

 

 レビューに書かれている不満の声をおおまかに分類して要約してみると、

 

  • ホールツアーの全曲を聴きたかった。なぜドキュメンタリーなのか
  • ライブ形式でもなく、完全なドキュメンタリーでもなく、作りが中途半端
  • 演奏が途中から始まり、フルで聴けない曲が何曲かある
  • シングルhimawariに収録されているヒカリノアトリエ・ツアーのライブ音源4曲のうち、メインストリートに行こう、PIANO MAN、跳べ、終わりなき旅の4曲に関しては、今回の付属CDにも入っており重複している。なぜ他の曲をなぜ選ばなかったのか

 

といったところでしょうか。

 

 ここに挙げた4点のうち、CDで4曲が重複していることに関して不満の声があることは、確かにごもっともだと思います。ミスチルおよび販売元のToy's Factoryがこうした形を取ったことには何か訳があるのでしょう。ただ、個人的に合点がいく理由はちょっと思い浮かびません。

 

日比谷野音と思いきや…

 

 今回の作品がライブの全編収録ではなく、なぜドキュメンタリー形式になったのかを考えてみたいと思います。

 

 個人的には、2016年6月4日の日比谷野外音楽堂での公演が、そのまま映像化されると予想していました。日比谷野音はロックの聖地とも称される場所ですが、ミスチルがここでライブを行うのはキャリアで初めてのこと。話題性に事欠かず、映像化するにはうってつけの場所だと思っていました。

 

 ほかに、熊本県立劇場でのライブも、候補として有力ではないかと考えていました。2016年10月14日の公演当日は、熊本地震発生からちょうど半年という節目の日。加えて、シングル曲ヒカリノアトリエの詞は、熊本地震の被災者に向けて書かれているといいます。復興に向けて歩みを進める街を舞台に作品にすれば、ライブを立体的に伝えられたはずです。

 

 しかしながら、ライブの全編収録という形で作品化されることはありませんでした。

 

セットリスト? 会場の大きさ? それとも…

 

 なぜライブだけを素材とする作品を避けたのでしょう?  その理由を考えてみると、個人的には3点、思い浮かびます。はっきりした情報はないので、いずれも推測の域を出ませんが、1つずつ見ていきましょう。

 

【その1】 観客が一体となって盛り上がれるアップテンポの曲や、知名度が高い曲が少なめで、ライトなミスチルファンまで付いてきてくれるか怪しいと考えた

 

 今回のホールツアーは、どちらかと言うと、しっとりと聴かせる曲が多く、観客が手を振ったり、手拍子を取ったりする曲は、過去のアリーナツアーやスタジアムツアーと比べて少なかった印象です。

 

※ 参考セットリスト

     Mr.Children Hall Tour 2016 虹 【 LiveFans (ライブファンズ) 】

     Mr.Children -Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ 【 LiveFans (ライブファンズ) 】

 

 ライブを映像化するに当たって、広く世に知られた曲が多く含まれている作品の方が、一般的にセールスは伸びる傾向にあると思います。その意味で、今回のホールツアーをそのまま映像化したとしても、「未完」や「POP SAURUS2012」の売り上げ枚数は超えられなかったかもしれません。それをもってライブ形式での映像化を回避したのだとしたら、音楽業界の現実的な判断として、受け止めるほかないと思います。

 

 ただ、ミスチルのライブに毎度足を運んで、映像作品を全て買っているようなファンからすると、今回のホールツアーのようなセットリストこそ、映像化してほしいと思うはずです。なぜならば、採用頻度が少ない曲が多く含まれていたからです。

 

 ミスチルのライブのセットリストは、どんな人でも幅広く楽しめるよう、よく練られた構成になっていると思います。アルバムをリリースした後に行うツアーであれば、その収録曲を軸に、過去の人気曲、有名な曲が要所に配置してあります。最近ではブレイク前の懐かしい曲を盛り込んでくることも多く、しばしば驚かされます。しっかり聴いてもらうところ、盛り上げるところのメリハリがよく利いていて、とてもバランスがいいのが特徴の一つかと思います。

 

 しかしながら、ファンの満足度を最大限に高めようときっと考えられているからこそ、セットリストに入る曲にはどうしても偏りが生じてしまいます。これは避けては通れない宿命のようなものです。

 

 ライブでよく歌われる曲を挙げてみると、名もなき詩、innocent world、エソラ、終わりなき旅、Tomorrow never knows、光の射す方へ、ニシエヒガシエ、Dance Dance Dance、CENTER OF UNIVERSE、蘇生、擬態…この辺りが定番だと思います。

 

 これだけ多く挙げて定番というのもある意味すごいことで、大げさに言うほど偏りはないのではないかと指摘されるかもしれませんが、ミスチルにはほかにも素晴らしい曲がいくらでもあります。

 

(個人的には、Distance、雨のち晴れ、ゆりかごのある丘から、Image、ロードムービー、空風の帰り道、僕らの音、風と星とメビウスの輪、Foreverといったところをもっと多く聴きたいと思っているのですが…)

 

 今回のホールツアーのセットリストには、水上バス、血の管、通り雨、Another Story、もっと、マシンガンをぶっ放せ、蒼など、あまり演奏されない曲が多くありました。それだけに、このツアーを映像作品化すれば、これまでと大きく色味が異なるものになったのは容易に想像できるところで、コレクションとして持っておきたい一品になったはずです。「全編通じてライブを見たかった」と思うファンが多くいるのは、自然なことでしょう。

 

 

【その2】ツアーの会場は小さめのホールばかりで、音や映像を使った派手な演出がしづらかった。カメラの設置台数も、おのずと限られてしまう。 ゆえに、これまでのアリーナやスタジアムツアーと比べて、どうしても見栄えがする映像作品にならないので二の足を踏んだ

  

 ホールのステージは、アリーナで組むステージと比べて、どうしたって小さめです。よって、豪華なステージセットや大型スクリーンを利用した派手な演出は、どうしても難しくなってしまいます。

 

 また、多くのカメラでさまざまな表情をとらえ、細かいカット割りで映像をつないでいく編集を良しとするなら、今回それをやるのは難しかった可能性はあります。会場の規模が小さくなるほど、スタッフが撮影用に利用できるスペースも小さくなるはずで、そうなれば、持ち込めるカメラの台数も必然的に絞り込まざるを得なくなるでしょうから。

 

 ましてや、本ツアーでステージ上にいるのは、サポートメンバーの4人を加えて計8人。ここのところ続いていたメンバー+キーボードの5人編成より3人多いわけです。その分、それぞれの表情など個別に撮らなければならない映像の量は増えるわけで、近年のアリーナやスタジアムツアーと同じようなクオリティーを維持するのは、困難だったかもしれません。

 

 しかしながら、ライブ映像にそうした見栄えは絶対不可欠なものでしょうか?

 

 もちろん、映像はきれいで迫力があり、目を引く仕掛けのようなものがあった方がいいに決まっています。演奏者のさまざまな表情やライブ風景をいろいろなアングルから収めた方が、より完成度が高いものができるでしょう。たとえば、屋根のないセンターステージで大雨に打たれながら披露したStadium Tour 2015 未完のタガタメは圧巻の出来で、ミスチルのライブ作品史上に残る傑作だったと思います。

 

 でも、全ての作品、全ての曲にそのような質を求めることはできませんし、する意味もありません。そして、現実的に派手さと程遠い作品がないわけではありません。Bank Bandが2005年3月にリリースしたBGM Vol.2 ~沿志奏逢は、小さな会場を使用しており、凝った演出はそれほどありませんでした。

 

 それでも、中島みゆきさんや浜田省吾さんらの曲を、感情豊かに歌い上げる桜井さんの姿には、ただただ見入ってしまいます。素晴らしい作品です。歌と演奏がよければ、それだけで作品として十分な力を持つことの好例でしょう。

 

 そう考えれば、収録面で制限がいろいろあったに違いない今回のホールツアーをライブ作品として出しても、ファンはきっと受け入れただろうし、良作になっただろうと思います。

 

 

【その3】撮り溜めた映像の量が多くなったため、これをドキュメンタリーの側面を強くしてみたいという欲が強くなった

 

 2017年12月号のファンクラブの会報によると、本作で監督を務めた稲垣哲朗さんは、ツアーの全ての公演に帯同してカメラを回したといい、撮った映像は600時間に上ったそうです。いつの段階でこのような映像作品にすることが決まったのか分かりませんが、これだけの分量があれば、ドキュメンタリータッチで腕を振るいたくなるのは分かる気がします。

 

 実際に、2016年1月からの17ヵ月間の出来事が丁寧に紡がれており、メンバーのあまり表に出ていない横顔を見ることもできます。とりわけ、田原さんが想像以上にイニシアチブを取っていたのは驚きでした。また、地方都市の折々の情景などは、過去の作品にない要素です。個人的には発見が多いドキュメンタリーでした。

 

 しかしながら、Amazonのレビューには、ドキュメンタリーとしての質にも疑問を投げかけるような声が散見されます。なぜでしょうか。

 

 その理由を考えると、遠因として思い当たることが1つあります。

 

ドキュメンタリーへの「慣れ」

 

 ミスチルのリハーサル風景やライブの舞台裏などは長らく、ファンが見たいと思ってもなかなか見ることができない貴重なものでした。メンバーは何を思い、どうやって楽曲を制作しているのか。雑誌のインタビューなどで知ることはできても、実際に映像として見ることは叶いませんでした。

 

 しかし、その状況が近年、変わってきました。その端緒を開いたのが、Split the Differenceです。もともとは映画館で上映されたドキュメンタリーで、2010年11月にDVDで発売されました。ドキュメンタリーとしては、1995年12月発売の【es】 Mr.Children in FILM以来15年ぶりとなる作品でした。スタジオでの制作の様子やライブに向けての打ち合わせなどが撮影されており、ファンが見たいと待ち望んでいた風景がそこにはありました。

 

 2015年6月15日には、REFLECTIONの制作現場に365日密着したNHKのSONGSスペシャルが放送されました。普段メディアにあまり登場しないミスチルがここまで撮らせるのかと、驚くばかりの内容でした。とりわけ、Starting Overのボーカル録音で、桜井さんが「もう1回」「もう1テイクやらせて」と歌い直す姿を25回以上細かく連ねた編集は、桜井さんの歌へのすさまじいこだわり、執念が伝わってくる斬新な手法で、鮮烈な印象を残しました。小さな居酒屋風の店で鍋を囲んだ忘年会の様子など、ミスチルが発売している映像作品では見ることができないようなところまでカメラは映しており、非常に見どころが多かったように思います。

 

 そして、2017年7月に発売されたシングルhimawariには、初回限定生産ながら、曲が出来上がっていく過程を収めたドキュメンタリーが付いていました。桜井さんがこの楽曲で骨太な音を志向したのはなぜか。それが制作現場でのやり取りを通じてよく理解できました。

 

 このように、2010年代に入って、ミスチルの舞台裏を映像で見る機会が増えてきているのです。ファンにとってはとても幸福な時代だと言えます。

 

 それは同時に、そうしたものを見ることに対する「慣れ」を生むことにもなります。「曲はどうやってできていくのか」「ライブの準備はどうやるのか」「メンバーの人間関係は実際のところどんな感じなのか」。かつて存在していた「見たい」「知りたい」という強い飢餓感のようなものが、ここのところ薄れてきているように感じます。今のファンは、舞台裏のミスチルを見ることに対して大きく身構えることはなくなってきているでしょうし、よっぽど秘密めいたものがそこに映っていない限り、衝撃を受けることもないかもしれません。ファンがミスチルのドキュメンタリーに求める期待値が、すごく上がってしまっているのです。

 

 そのような状況の中で、ヒカリノアトリエで虹の絵を描くは発売されました。

 

 今回の作品にかつてない新鮮味や、誰が見ても驚くような要素が多く含まれていたでしょうか。個人的にはいろいろ楽しめる部分や感じるところは多かったですが、客観的に見ればイエスとは言いづらい気がします。

 

 それが、本作に辛口意見が多く見られる背景としてあるように思います。

 

ありのままを見られるだけでもOK

 

 しかし、これは危険な兆候ではないでしょうか。等身大のミスチルを見ることに慣れてきているからこそ、あえて慣れない意思を持つことが大事だと私は考えます。

 

 ミスチルの制作風景は、ファンのみならず、業界関係者であっても興味をひかれると思います。それをこうして映像作品を通じて見せてくれることが、どれだけ貴重なことなのか。

 

 レコーディング風景に既視感を覚えたとしても、そこにとんでもないドラマや驚くような事件がなかったとしても、ありのままの姿が映っているだけでも十分価値があるような気がします。

 

 求める水準が高くなったファンが不満を漏らすによって、ミスチルがドキュメンタリーの発表に今後消極的になってしまったら、それこそ取り返しがつきません。

 

 作品に対する素直な意見、批判はあっていいと思います。ただ、それをするためには、過去から現在へと続く流れを踏まえ、どれだけ今の状況が恵まれているかをまず再認識する必要があるように思います。

 

 ヒカリノアトリエで虹の絵を描くは、今後ミスチルのドキュメンタリーをファンはどう受け止めればいいのか、それを考えるためのいい機会になっていると思います。

 

 

 以下は私が書いたAmazonのレビューです。引用します。 おおむね今回ブログで書いたことの骨子のような内容です。

 

 もともとはバンドの記録用に撮影されたというだけあって、映像そのものに特別な演出はなく、インタビューもない。ホールツアー・虹に向けて動き出した2016年1月から、ホールツアー・ヒカリノアトリエを終える2017年5月までの17ヵ月間、メンバーは何を思い、どう活動してきたのか。リハーサルや舞台裏の様子、ライブ映像などをつなぎ合わせて、134分の作品としてまとめられている。

 Mr.Childrenというバンドには、音楽で人を喜ばせようという並々ならぬ意欲はあっても、変に肩ひじ張ったところはどこにもない。たとえば、サポートメンバーを加えた今回のバンド名に関して、「ミスターチルドレン&なんとか」という付け加えた感じが嫌で「ヒカリノアトリエ」にしたという説明が映像の中にある。また、熊本地震によってライブに来ることができなくなった人に向けて、少しでも早くメッセージを出そうと話し合っている場面も映されている。おごりのようなものをみじんも感じさせず、音楽に対してとにかく真っ直ぐ。そんな姿勢を今もって維持し続けていることが何より素晴らしい。

 最も驚いたのは、寡黙な職人気質だと思っていた田原さんが、随分と積極的にイニシアチブを取っていたことだ。シーケンサー(録音しておいたストリングスなどを再生する装置)を使わないツアーを発案したのは田原さんで、これがなければ今回の8人編成にはならなかったかもしれない。ほかにも、ヒカリノアトリエのレコーディングに際して同時演奏による「一発録り」を強く推したり、ライブのメンバー紹介をする具体的なタイミングを提案したり。そして、桜井さんの咽が不調で打ち切りとなった名古屋公演ではマイクを握り、「桜井が歌えなくなってしまうと、ミスターチルドレンが終わってしまうので」と謝罪し、観客に理解を求めてみせた。意外と言っては失礼か。こんなにも熱く、能弁な人だとは、思いもしなかった。

 考えてみれば、セルフプロデュースとなったREFLECTION以後、最も大きな変化があったのは、実は田原さんかもしれない。目立っていた鍵盤音が抑制的になり、代わってギターの存在感が増した。それによって田原さんの言動や行動に影響があったかどうかは分からない。ただ、現在のミスチルは、桜井さん1人のリーダーシップを拠り所とするバンドでは決してない。本作を見れば、明らかだ。4人の有機的な関係を見られるだけでも、本作はドキュメンタリーとして十分な価値を持っていると言えるだろう。

 ライブのステージに目を向けると、8人による演奏は実に心地いい。それぞれが自分の音のあり方を深く考え、理解し、絶妙なバランスを取りながらプレイしている。派手なテクニックを見せ合うわけではない。前に出すぎず、引きすぎず。手が届きそうな音を1つ1つ連ねて、結果として全くの別世界に聴き手を導いていく。プロの至芸を見る思いだ。

 桜井さんはファンクラブの会報で「バンドの音楽はイタリアンのような店ではなく居酒屋であるべきで、品が良すぎてもダメ」と語っている。まさに今回のパフォーマンスは、そんな店構えのようだ。気軽にくぐれるのれんを掲げて、オーソドックスな料理をそろえているのに、味付けは徹底的にこだわり抜いていて、世の食通たちをうならせる。とりわけクラスメイトは、哀愁に満ちたギターの音色がピリッとした刺激となって、やみつきになるお勧めの逸品。もともと豊かだった滋味がさらに凝縮された印象で、心に刺さるものがあった。

 もっとも、本作の目玉はどうしたって、未発表曲のお伽話、こころになるだろう。お伽話はそのタイトルが持つイメージとは対照的に、「覚醒剤」や「わいせつ行為」といった言葉を用いながら、抱えた負の感情を歌いあげる。こころは、桜井さんが近しい人を相次いで亡くした後に、感じた思いを込めたという情感豊かなバラードだ。2曲ともテンポが緩やかでメロディーラインが美しく、今回のライブにぴったりだと感じる。

 3度に分けて計35都道府県を回った22年ぶりのホールツアーは、近年のアリーナやドームツアーではあまり選ばれないような曲を多く含んだセットリストになっている。それだけに、ドキュメンタリーではなく、全編通じたライブ映像作品にしてほしかった、と訴えるファンが多くいても不思議はないだろう。

 それを分かった上で、ミスチルはドキュメンタリーという手法を選んだ。そこにはきっと、理由があるはずだ。観客が一体となって盛り上がれるようなアップテンポの曲が少なめだったためか、はたまた小さなホールツアーで、光や映像をふんだんに使った見栄えあるライブ演出がしづらかったことを考慮したか。それとも別の大人の事情があったのか。いずれにしても、本作はミスチルのライブ映像作品を初めて買うような人には、ややハードルが高いかもしれない。

 付属のCDに収録されている楽曲は、映像作品側と音源は同じ。しるし、メインストリートに行こうといった曲が、ライブ映像で一部しか入っていないのを補う役割があると思われる。もしそうであるなら、映像側でフルで聴くことができる終わりなき旅などはCDに収録せず、別の曲を選んだ方が満足度は高くなったかもしれない。

 ホールツアーの映像がこのようなドキュメンタリー作品であったことを考えれば、デビュー25周年を記念して行われたThanksgiving 25は、通常のライブ収録作になるのではないか。こちらはセットリストを見る限り、ヒット曲をこれでもかとちりばめた王道のど真ん中。今回ホールツアーの全てを楽しめなかったことは確かに残念ではあるが、必要以上に嘆いても仕方ない。本作でミスチルの現在地をしっかりと目に刻み、祝祭ムードに包まれているに違いない次作への準備とすることにしよう。