書く書く しかじか

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東京五輪 招致 贈賄疑惑 ブラジル会長逮捕で再燃も 東京2020これでいいのかvol.6

他人事ではない東京招致委

 リオデジャネイロ五輪の招致活動をめぐる疑惑で、大きな動きがありました。ブラジルの捜査当局は、開催都市を決める国際オリンピック委員会IOC)委員の票の買収に関与した疑いで、ブラジルオリンピック委員会会長のカルロス・ヌズマン容疑者を逮捕しました。逮捕日は2017年10月5日です。

 

 さて、このニュース、東京五輪の招致に関係した方々は、どのように聞いたでしょうか。対岸の火事と見ることはできません。なにせ、ヌズマン容疑者が買収したとされる人物側に、東京五輪招致委員会の金も流れた疑いがあるのですから。

 

 ヌズマン容疑者は2009年のIOC総会直前、開催都市を決める票を買収するために、ブラジルの企業を通じて、200万ドルの賄賂を送った疑いが持たれています。

 

 金の送り先は、当時IOC委員で国際陸上連盟会長だったラミン・ディアク氏(セネガル)の息子、パパマッサタ・ディアク氏の会社とパパマッサタ氏個人の口座です。

 

 リオはIOC総会での投票の結果、マドリード、シカゴ、東京との争いを制し、2016年の五輪招致に成功しました。パパマッサタ氏からラミン氏を通じてIOC委員へ、票を買収するための金が流れたかどうかは現時点で明らかになっていません。ただ、リオは現実に、南米初の五輪招致を勝ち取りました。

 

 東京五輪の招致にも、リオ五輪と同様に、疑惑があります。その事実に関しては、2016年5月11日、英ガーディアン紙が最初に報じました。

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東京五輪の招致疑惑を最初に伝えたガーディアン紙のホームページ

 

 ガーディアン紙の記事や、その後の日本のメディアによる報道などを交え、招致時の状況を振り返ってみましょう。

 

ブラックタイディングス社とは

  

 16年招致に敗れた東京は、20年招致レースにも連続で参戦することになります。日本オリンピック委員会JOC)の竹田恒和会長は「(16年と)同じ失敗は許されなかった」と語っています。

 

 そうした大きな重圧がかかる中、招致委員会は1つの会社と接触しました。シンガポールにある「ブラック・タイディングス」(BT社)です。BT社側から招致委に売り込みがあったといいます。

 

 招致委がBT社について電通に照会したところ、「アジア、中東地域の活動に強く、陸上界にも影響がある」ということが分かり、「コンサル業務」を行ってもらうことになり契約。IOC総会を直前に控えた2013年7月、BT社の口座に入金しました。

 

 果たして、その効果があったのか、9月のIOC総会で、東京はイスタンブール、本命とされたマドリードを破って、20年五輪の招致に成功しました。

 

 それから3カ月後の10月、招致委は再びBT社に入金しています。2度目の送金は、成功報酬という位置づけだったのでしょうか。支払った額は計280万シンガポールドル、日本円で約2億3,000万円に上ります。

 

 パパマッサタ氏は、東京五輪招致委から入金があった2013年7月、パリのシャンゼリゼ地区で、宝飾品や時計など13万ユーロ(約1,600万円)相当の買い物をしたことがフランス検察の調べで分かっています。当局は、日本がBT社に支払った金が、パパマッサタ氏に渡ったとみて調べているようです。BT社とパパマッサタ氏はどういう関係なのでしょうか。

 

カギを握る電通 

 

 このBT社は、イアン・タンという人物が代表を務めています。パパマッサタ氏とは親友関係にあるとされています。ガーディアン紙によると、タン氏は2014年に生まれた自らの子どもを「マッサタ」と名付けるほど、パパマッサタ氏と親密な関係だということです。

 

 そのタン氏は、スイスのスポーツマーケティング会社「Athlete  Management and Services」(AMS)のコンサルタントを務めていたといいます。ガーディアンは東京五輪招致をめぐる疑惑報道の中で、AMS社は電通の子会社だと報じました。

 

 招致委からラミン・ディアク氏まで1本の線でつながっていることが、これで分かるかと思います。 

東京五輪招致委 ― 電通 ― AMS社 ― AMS社にコンサルタントとして務めていたタン氏 ― タン氏の親友のパパマッサタ氏 ― 父親のラミン氏

 

 電通はAMS社に関するガーディアン紙の報道に対し、「子会社ではなく、取引先の一社」と各種メディアに回答しました。つまり、子会社であることは否定しましたが、つながりがあることは認めたわけです。

 

電通国際陸連の関係

 

 電通はラミン・ディアク氏が会長を務めていた国際陸連と元より密接な関係があります。電通は少なくとも2001年から、国際陸連が主催する世界陸上などの大会のマーケティング権、放送権を取得、管理しています。

 

 2007年には2010~19年の同じ権利を、さらに五輪招致に成功した翌14年の9月には、2020~29年の同じ権利を取得したと発表しました。権利の範囲は、欧州放送連合地域における放送権は除くものの、全世界に及ぶとても規模が大きいものです。

 

 ラミン氏にとって、電通は重要なビジネスパートナーでした。そんな密な関係の電通を通して、五輪招致を狙う日本マネーが、ラミン氏側に流れ込んだとみられるのです。 

  

ペーパーカンパニーか否か

 

 東京招致委のBT社への支払い疑惑に関して、2016年5月12日、フランス検察が捜査している事実を公表します。ガーディアン紙の報道を受けての対応でした。フランス検察が捜査している理由は、ラミン氏が会長を務めていた国際陸連の本部がモナコにあり、そのモナコ司法権をフランスが握っているからです。

 

 フランス当局の発表の2日後、JOC竹田恒和会長は支払いを「事実」と認めた上で、ロビー活動や情報分析に関する「コンサルタント料」という認識を示しました。

 

 しかし、海外メディアなどの調べで、BT社は古びた公営住宅の一室が住所として記載されていることなどから、実態がないペーパーカンパニーだと指摘されています。

 

 同年5月16日、竹田会長は衆院予算委に参考人として呼ばれました。BT社について「ペーパーカンパニーではない」と強調しましたが、2億3,000万円の使途については「確認していない」などと答弁し、明確な形で疑惑を払拭することはできませんでした。

  

コンサルタントの役割

 

 東京五輪招致委は20年五輪の招致時、BT社以外にも海外コンサルとして、10人ほどに支出をしていることが、活動経費報告書から分かっています。招致活動経費の総額は89億円で、うち海外コンサルへの支払いは7億8,600万円。その中にBT社への2億3,000万円が含まれています。

 

 五輪招致を目指す都市にとって、海外コンサルの存在は欠かせないといい、他の立候補都市も利用していたといいます。では、五輪招致活動に関するコンサルとは何でしょうか。

 

 一般に言われているのは、IOC委員の投票行動に関する情報収集です。正確な情報に基づいた戦略なしには、招致活動は勝ち抜けません。

 

 また、招致を目指す都市とIOC委員を結びつける役割も担うとされています。立候補都市の関係者は、大きな国際大会の開催に合わせて会場に出向き、そこでIOC委員に投票してもらえるよう直接アピールすると言います。その場での顔合わせ、仲介をコンサルが引き受けるのです。竹田会長はIOC委員とつながりがない人が、コンサルになることはない」と国会で明言しています。

 

 コンサルの存在感が増したのは2000年以降です。2002年ソルトレイク五輪の招致委がIOC委員を買収したとされるスキャンダルが発覚し、IOCは委員が立候補都市を訪問することを禁止しました。ただし、立候補都市と委員が接触することはまでは禁じませんでした。そこで、両者の間に入るコンサルが重要になってきたのです。

 

 つまり、東京五輪招致委がコンサル会社と契約することそのものに問題はありません。ただ、実態が不確かなBT社を通じて、IOC委員ラミン・ディアク氏の息子であるパパマッサタ氏に金が流れているのではないか、と贈収賄が疑われているから問題になっているのです。

  

つながりを認識していなかった?

 

 2016年9月1日、立大教授らで構成するJOCの調査チームが、BT社とのコンサルタント契約について「違法性はなかった」と結論づけ、IOCの倫理規定にも違反しないとする報告書を公表しました。

 

 しかし、この報告書には、解せない部分があります。BT社とIOC委員のラミン・ディアク氏がつながっていることを、招致委側が「認識することができたとは認められない」、よって「贈与という認識はなかった」と指摘した点についてです。

 

 果たして、招致委側は本当に、BT社の代表であるタン氏と親友のパパマッサタ氏、父親のラミン氏の関係を知らなかったのでしょうか。BT社の最大の強みは、まさにタン氏とパパマッサタ氏の親密な関係であるはずです。相手の長所を知ることなしに、億単位の契約を結ぶとは、どうにも思えません。それほど招致委に集まってきている方々は軽率ではないと考えるのが自然でしょう。

 

 何より、BT社との契約を結ぶ前、招致委側はBT社について「陸上界に影響がある」ことを理由の一つに挙げていました。なぜ陸上界に影響があると分かるのか。それは、まさにタン氏とパパマッサタ氏の関係にほかならないでしょう。

 

 また、報告書ではBT社について「実態はあった」としています。その理由として、IOC委員の投票行動に関する記述を含んだBT社の活動報告書が、招致委に送られてきているという点を挙げています。

 

 しかし、調査チームは調査を進める過程でタン氏らと接触することができず、BT社の活動報告書に関して、その内容の正しさを証明できたわけではありません。本当にBT社がそうした活動を行ったかどうかが分からない以上、実態があったという確かな証拠には成りえないのです。

 

 そうしたことを考えると、招致委が完全に「シロ」であることを証明するまでには、残念ながら至っておらず、疑惑は依然として残っているのです。

 

五輪は生き残れるか

 

 調査チームによる報告書が公表された後、東京五輪招致に関する報道は、めっきり少なくなっていました。そんな中、ブラジルオリンピック委員会の会長が逮捕されました。これを契機に、フランス検察当局が、東京の捜査を本格化させる可能性もゼロではありません

 

 ただし、ブラジルオリンピック委員会会長の逮捕は、パパマッサタ氏側とやり取りした電子メールが証拠として残っていたと伝えられています。東京はどうでしょう。そうした危ないものが仮にあったとしても、既に消去、破棄しているのではないでしょうか。

 

 そう考えると、フランス当局による東京招致委の立件は、タン氏やパパマッサタ氏側が贈収賄の認識があったと証言しない限り、現実的に難しいかもしれません。

 

 一連の疑惑報道によって、東京が得たものは何でしょう。

 

 はっきり言って、一つもありません。仮に違法性がなく、決定的証拠も見つからず、逮捕者が出なかったとしても、東京と日本人に対する世界から見たイメージが悪くなったのは間違いないでしょう。

 

  IOCにとっても痛手でした。招致レースをクリーンなものにすべく改革してきたのに、いまだに裏で億単位の怪しい金が動いていると報じられてしまったのですから。

 

 ただし、こうして金を使ったIOC委員へのアピール合戦は、東京で最後になる可能性もあります。「五輪開催は金がかかる」という認識が定着し、招致に名乗りを上げる都市が減ってきているからです。

 

 IOCは2017年9月13日、24年の開催地はパリ、28年はロサンゼルスと、財政力がある大都市を一括で選出しました。2都市を同時に選ぶのは異例のことです。それだけ立候補都市の選出に苦労しているということです。現在の形での五輪が限界に近付きつつあることを浮き彫りにしたと言えるでしょう。

 

 五輪はいつまで開催できるのか。将来にわたって残していけるのか。IOCには、招致活動の部分から、待ったなしの改革が求められそうです。

 

一連の出来事

  2013年7月 東京五輪招致委からBT社に送金
    9月7日 IOC総会で2020年の東京五輪開催決定
     10月 招致委からBT社に2度目の送金
2014年4月18日 招致活動費が89億円だったとする報告書公表
2016年5月12日 仏検察「東京招致委の支払い疑惑を捜査」と公表
2016年5月14日 JOC竹田会長、送金事実認める
    9月1日 調査チーム、不正なかったとする報告書公表
2017年10月5日 ブラジルオリンピック委員会会長逮捕

 

 

 

 東京五輪に関する記事は以下。