書く書く しかじか

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エミレーツ航空のドタバタ対応 アラブの地は遠く ドバイ旅行記 番外編1

 まさか…突然の欠航 

 秋の海外旅行で最も恐ろしいのは、そう、台風です。出発日に直撃するのだけは勘弁して、と誰もが思うでしょう。ただ、いくら願ったところで、運悪く重なってしまうこともあるわけです。

 

 10月初頭、われわれの出発日に合わせて大型の台風が近づいてきました。九州に上陸し、本州を東に進み、そして関東に到達したのは、出発まで24時間というタイミング。暴風雨の激しさは、近年あまりないレベルのものでした。ただ、出発まで丸1日あるから大丈夫、きっと定時で飛ぶだろう―。そんな希望は無残に砕け散り、悪夢の1日が始まることになるのです。

 

 エミレーツ航空の羽田発ドバイ行きの出発は午前0時30分です。昼間にフライト状況を確認すると、遅れや欠航の表示は出ていなかったので、出発3時間前の午後9時半ごろ、余裕を持って空港に到着しました。

 

 しかし、電光掲示板を確認してみると、出発が約6時間遅れて、午前6時15分に変更になっているではありませんか。1時間程度ならともかくとして、6時間はさすがにきつい。何が起きたのでしょう。愕然としました。

 

 いったいどうやって朝まで過ごせばいいのか、途方に暮れていたところ、さらに追い打ちをかけられることになります。空港に到着して30分後、電光掲示板の表示が突然、「Delayed」から「Cancelled」に変わったのです。わが目を疑いました。何度見返してみても「欠航」になっています。意味が分かりません。

 

 エミレーツのカウンターで理由をただしてみると、「乗務員のやりくりがつかなくて、急きょ欠航が決まりました。私たちも直前まで知りませんでした」と言うではありませんか。乗務員を集められるかどうかなんて、前日に台風が直撃した段階で計算できたはずです。それなのに、出発を6時間も遅らせる対応に回り、果ては欠航という始末。どうにも解せません。

 

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エミレーツのカウンター。パネルには、台風で乗務員を集められず欠航になった旨を伝える「CREW DUE TYHOON」の文字。正確には「TYPHOON」なのですが、スペルミスに気づかないくらい、職員もパニックになっていたのでしょうか。

 

 欠航の代わりとなる便は、同日午前11時に飛ぶことになりました。しかし、出発空港は、なんと羽田ではありません。成田です。エミレーツは羽田に待機している客のために、京成成田駅前のアパホテルを確保し、移動手段としてバスを手配したといいます。面倒なことになりました。

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エミレーツ側から渡されたアパホテルや臨時便の案内書

 

バスはドバイへ行った!?  

 問題はここでは終わりませんでした。

 

 バスに乗る乗客たちの集合時間は、午後11時15分でした。当然ながら、バスはその時間には羽田に到着しており、すぐに乗車できると誰もが思っていたはずです。

 

 しかし、バスは予定の時間になっても姿を現しません。10分、20分、30分と、時間が流れていきます。バス乗り場近くのベンチに集められた乗客たちに、少しずつ不信感が募っていきます。なぜバスは来ないのか。エミレーツと共同運航にあたるJALのスタッフが対応に当たっていたので尋ねてみると、「分からない」と言い、驚くべきことに「運転手と連絡がつかない」と告白しました。連絡がつかない? 今の時代にそんなことがあり得るのでしょうか。

 

 日付変わって午前0時を過ぎたあたりから、外国人客を中心にいらだちが目立ち始めました。待つことに対する不満ではありません。午後11時30分に出発すると言っておきながら、バスが行方知れずで、スタッフさえも居場所を把握できないという、極めて不可解な事態に対するまっとうな怒りです。

 

 そして、スペイン語母語とする50代くらいの夫婦がついに爆発し、スタッフに詰め寄りました。

 

 「もう待てない。ホテルまでタクシーで行く。料金は、成田のエミレーツのカウンターで精算してほしい」

 

  みんな我慢の限界でした。誰かが先陣を切ってくれるのを待っていたのでしょう。せきを切ったように、多くの乗客たちも後に続き、JALの女性スタッフたちに詰め寄りました。

 

 「バスは来ないじゃないか。どこへ行ったんだ? ドバイに行ったのか?」
 「エミレーツはウソつきじゃないか」
 「ここにいる全員をタクシーで成田に行かせるべきだ」

 スタッフは全員30歳に達してなさそうな若手で、荒れた乗客たちをなだめる言葉を全く持ち合わせていません。彼女たちだけでは、事態の収拾は不可能な状況でした。SOSが発せられたのでしょう、それからほどなくして、エミレーツのベテラン女性スタッフが現れました。

 

 乗客たちはエミレーツのスタッフを取り囲み、あらん限りに怒りをぶちまけていきます。英語と日本語が飛び交い、ロビーには殺気とでも言いたくなるような空気が膨らんでいきました。

 

 時間の正確さにかけては世界有数の日本にあって、これほど遅れるのは普通では考えられません。ましてや、誰もが携帯電話を持っている現代にあって、運転手と連絡がつかない、バスがどこを走っているか分からないなんて、信じがたい話です。日本人の客からは、周囲に詫びるように「日本の恥だ」という発言まで飛び出しました。

 

エミレーツは被害者か

 本来は謝罪する側のエミレーツですが、容易には引き下がりません。怒りに満ちた客の前で、これみよがしにスマホを取り出してバス会社に電話をかけ、こちらも厳しい言葉を並べたてました。「いつ到着するんですか? 近くにいる? 近くって具体的にどこですか? 近くにいるなら、なぜ着かないんですか? なぜ言った通りの時間に来てくれないのですか? こっちは大変なことになっているんですよ」

 

 われわれも被害者で、弊社に非はありません、といわんばかりの必死の立ち回りです。確かに、エミレーツも裏切られた側だったのかもしれません。しかし、だからといって客の怒りが収まるわけではありません。

 

 乗客が求めたタクシーでの成田移動を、エミレーツ側は認めようとしませんでした。「ここにいる全員が乗れるだけのタクシーは、この時間帯に空港に残っていない」が表向きの理由でした。

 

 混乱が収まる気配はなく、押し問答は延々と続きました。限界まで張りつめた空気がようやく払われたのは、午前0時30分ごろのこと。エミレーツの担当者は携帯電話で連絡を受けると、安堵の息をにじませるように叫びました。「The bus is approaching!」(バスが到着します)。ドタバタ劇の終結宣言でした。

 

 しかし、なぜバスはこんなに遅くなったのでしょうか。普通に考えれば、落ち度があるのはバス会社のように思います。

 

 エミレーツ側に向けられた乗客の怒りを、そのままバス会社側も受け止める責務があるように感じ、私は運転手を問いただしてみました。すると、へらへらとした表情で、こう言い放ちました。「前に仕事があったので」

 

 まったくもって理由になっていません。前に仕事があるのは分かった上で、時間の約束をしたはずです。そうただしても、無言のまま。「乗客に謝罪しないのですか?」。そう尋ねると、薄笑いを浮かべるだけで、言葉は返ってきませんでした。

 

 出発は最終的に、当初予定より1時間20分遅れの0時50分でした。

 

 運転手の無責任な態度には、許容できないものがありました。しかしながら、元をたどればエミレーツが当初予定のフライトを欠航にしたのが全ての始まりです。他の航空会社も同じように、台風の影響を受けて飛べないというなら納得しますが、そうではありません。同じ日の夜間の時間帯に、欠航になったのはエミレーツだけ。繰り返しになりますが、「スタッフのやりくりがつかなかった」という前もって対処できそうなことが理由でした。パイロットが飲酒検査に引っ掛かったのではないか、と勘ぐりたくもなります。

 

 自他共に認める世界有数のエアラインは、この程度なのか―。ここに端を発したエミレーツに対する不満は、旅から帰ってくるまで続くことになりました。

 

 アパホテルに着いて、シャワーを浴び、布団に入ったのは午前4時。最初の就寝が、アル カスルではなく、アパになるとは…。悲しいやら悔しいやら腹立たしいやら、さまざまな思いを抱えながら、1日目がスタートしたのでした。

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 前置きが長くなりました。こういう理解に苦しむことが時に起こりうるのだとお伝えしたく思い、あえて書きました。番外編1はここまでです。旅行記の本編をお楽しみください。

 

旅行記本編の1です。