新聞4社 東京五輪スポンサーに問題は? 東京2020これでいいのかvol.4
朝日まで…
1業種1社の撤廃は収入増が期待できる半面、マイナス要素も考えられます。
まず、東京五輪をどのようにサポートするかという点で、同業間での細かな棲み分けが必要になります。組織委とスポンサー企業間で、そうした調整に時間と労力をかけなければならないのは、間違いなくマイナスでしょう。
また、スポンサー側は、スポンサーシップの活用法にも頭を悩ませることになると思います。スポンサーシップを単なる企業名の露出にとどめず、いかに営業活動や企業課題の解決につなげていくか、という点をスポンサー側は第一に考えなければなりません。
サッカーW杯などと違い、五輪は競技場内に広告看板を掲示することはできません。「クリーンベニュー」(clean venue)と呼ばれるルールです。直訳すれば「きれいな会場」。
つまり、五輪のスポンサー企業はスポンサーになって終わりとは決してなりません。自社の広告がテレビ中継に映し出されることはないため、五輪マークを活用するなどして、いかに自社を宣伝するかを考えなければならないのです。
しかし、同業他社がスポンサーとして存在すると、スポンサーとしての利点を最大化しづらい状況が発生することになります。同業他社も同じように五輪スポンサーとなり、宣伝活動に注力しているのですから。費用対効果の点において、相乗りが1業種1社に比べて劣るのは否めません。
そして、東京五輪のスポンサー相乗りに関して、最大のデメリットとして挙げなければならないのは、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞の業界大手4社がそろって名を連ねたことでしょう。4社はいずれも「オフィシャルパートナー」契約(3階層に分かれている大会組織委員会のスポンサーのうち、格付け的に2番目の層)を結んでいます。
「東京2020これでいいのかvol.2」のページを見てもらえば分かる通り、ロンドン五輪でマスメディアは1社もスポンサーになっていません。多額の税金を投入して五輪を開催する以上、メディアによる監視と批判は必要です。その点において、メディアが大会に金銭面から与しない方が賢明であるのは間違いないでしょう。
百歩譲って、新聞社が1社くらいスポンサーに入っても、目に見える形で問題になることはないと思います。しかし、東京五輪では、全国紙の大手4社がそろってスポンサーとなりました。
東京五輪の準備を進めていく上で、これからさまざまな課題や難題が浮かんでくると思います。その際、スポンサーになっていることで、批判的な視点が曇り、公正な報道に支障をきたす可能性も考えられます。
とりわけ、朝日新聞がスポンサーになったことが残念でなりません。リベラルで権力監視に力を入れる朝日が、いかに自国の一大イベントとはいえ、大本営側に足を踏み入れる必要があったのでしょうか。
2016年1月22日に発表されたスポンサーシップ契約時に、朝日新聞の渡辺雅隆社長は「報道の面では公正な視点を貫き、平和でよりよい社会をめざす大会の理念に共感し、協力して参りたいと思います」とのコメントを発表しています。
しかし、新聞社として当然ながら持っているべき「公正な視点」も、自社の主催・協賛が絡むと簡単に失われてしまいます。朝日新聞が主催する高校野球の夏の甲子園に関する報道を見れば、それは明らかでしょう。仮に記者個人が公正な視点を持って取材に臨んだとしても、そこで書かれた記事が紙面から遠ざけられては意味がありません。
また、スポンサー4社にだけ優先的に組織委側から情報が流れるなど、報道現場の公正な競争を阻害しないかとの懸念も生じます。
スポンサーに名を連ねていない在京の大手紙は、産経と東京だけです。産経はもとより体制側ですから、東京五輪の準備や運営に対する問題提起に関して、大きな期待は持てません。東京新聞は独自の調査報道に定評はあるものの、あくまでブロック紙で、人員の少なさや社会への影響力という点で全国紙に及ばないものがあります。そう考えると、いったいどのメディアがチェック機能の役割をまっとうできるのでしょう。
東京五輪の組織委員会会長はご存知の通り、森喜朗氏です。首相まで務めた人ですから、情報管理がいかに重要かは体験的に分かっているはずです。どうやって自身や組織委への批判的な言論を抑え込み、スムーズに準備を進めていくか。そんな発想から持ち込まれた新聞4社での契約だった気がします。もとよりJOCのスポンサーを務めた実績がある読売が協賛するのは自然の流れとして、朝日と毎日に関しては、森会長の手に落ちたという印象がぬぐえません。
戦時中、新聞各社はそろって国威発揚を図り、対外強硬論を押し通しました。結果、多くの国民は戦局の実情を知らないまま、終戦を迎えました。よく言われるマスメディアの戦争責任です。翼賛体制の恐ろしさは骨身に染みて実感したはずなのに、今回五輪で同じような横並びの形が取られました。「バスに乗り遅れるな」の掛け声は、東京五輪のスポンサー契約に関して、朝日と毎日にはふさわしくないと言わざるを得ません。
「所詮はスポーツイベントじゃないか」と高をくくるのは危険です。国政においても都政においても、何かと五輪と政策はセットで語られます。「東京五輪を成功させるために」という大義名分の下、メディアが一律の論調や空気感に支配され、なされるべき批判がなされないとも限りません。戦時のような過ちを決して犯さないよう、目を凝らしておく必要があります。現場の記者、とりわけスポンサー4社の記者は、組織委をはじめとする運営側の意を忖度することなく、正しい方向へ進路調整ができる報道を心がけてもらいたいと思います。
※ 追記 本稿をアップロードしたのは2017年10月4日でしたが、その後、18年1月1日に、産経新聞と北海道新聞が、組織委と「オフィシャルサポーター」契約(3階層の3番目)を結んだことを紙面上で発表しました。在京の大手紙で組織委と契約を結ばないのは、東京新聞だけになりました。
1業種1社の撤廃による金銭的メリットはvol.3
東京五輪 過去最高の国内スポンサー収入だけど… 東京2020これでいいのかvol.3